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私設Blog「黒曜石の図書館」

本、言葉、文化にまつわるエトセトラ。

「金持ちは、なぜ高いところに住むのか 近代都市はエレベーターが作った」

先月の朝日新聞書評に掲載されていて興味を惹かれた。

運のいいことに市の図書館に入っていたので、取り寄せる。

 

ラ・ボエーム」というオペラのDVDをぼんやりと鑑賞したことがあるが、舞台は1830年代のパリ。貧しい芸術家たちが、寒さに耐えながら暮らす屋根裏が舞台だ。

 

書籍には分類番号が振られているのだが、この本は「外国文学・その他」という括りだった。エレベーターという科学技術でもあり、近代史のようでもあるし、しかし中で紹介している小説、戯曲はかなりの数にのぼっている。多層建築の賃貸住宅にある人々の暮らしの変化が鮮やかに描かれるためだ。カフカの作品も紹介される。

「本書は、エレベーターという技術装置が、19世紀末から20世紀初頭までのいわゆる「世紀転換期」に、ドイツやアメリカで多層(高層)建築物に対する人々の認識を変えていった過程を、さまざまなテクストを横断的に分析することで描き出そうとするものである」(訳者あとがき)

 

1854年、ニューヨークの万国博覧会において、安全装置付きのエレベーターの公開実験を行ったことから常用エレベーターの歴史が始まる。

先にアメリカで、遅れてヨーロッパで、エレベーターを導入した高層ビルの建築がなされていく。垂直方向に建物を貫くエレベーターによって、各フロアは同じ間取りをよしとするようになる。あたかも都市計画によって大通りが街を貫いたように、エレベーターは垂直方向に区画を整備する。

エレベーターが信頼できる乗り物になると、上層階は富裕層のための特別なフロアへと逆転する。「成功した者が世界を見下ろす。山の頂とオフィスビルの最上階は、同じ視点をもたらしたのである。」P178

 

技術の進歩によって乗務員も必要なくなり、ボタンひとつでコントロールが可能になる。「押しボタンという新しいインターフェース」の人々の認識についても、近代の変遷という観点から興味深い。

また、エレベーターが勝利の凱歌を上げた一方で君主制が没落していったのは、単なる歴史の偶然の一致であろう。しかし…」と関係性を見出していくくだりも面白い。

 

漫然と利用しているものにも歴史があり、当たり前に思っていることが、案外歴史の浅いことだということに気づかされる面白い本だった。

図書館で受け取るまでこんなにぎっしりした内容だとは思っていなかったので、難儀しながらなんとか読み通したというのが本音だが、たまにはヘビーな読書も良い。

とは言え、読書的体力をかなり消耗したので、次は何か口当たりの軽いものにしよう…。まずはこの本の付箋を剥がさなければ…。

 

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金持ちは、なぜ高いところに住むのか―近代都市はエレベーターが作った